コスモス寺花だより 4・31
〇コスモス:≪満開つづく≫
10月は今日で終わります。お天気は上々の行楽日和、奈良も大勢の人でにぎわっています。最近当寺にも外国からの観光客が増えてきました。きのうはベトナムの学生さんが10人ほど、皆さん日本語を勉強しておられます。一昨日は中国の寧波(ニンポー)市の文化交流団の方が20人見えられました。目的は鎌倉時代に寧波から東大寺再建にやってきて般若寺の十三重石塔を建てた伊行末(イギョウマツ)伊行吉(イギョウキチ)の故地を訪ねてでした。日本文化はアジア各国の恩恵を受けてはぐくまれました。奈良は昔から国際都市でした。これからますます交流が盛んになるでしょう。
「コスモスの 花吹きしなひ 立もどり」高濱虚子
般若寺のコスモスは多種多彩。主力が「センセーション」から「秋咲大輪美色」へ入れ替わりました。8~10センチの大きな花です。背丈は低いのから高いのまで三段になっています。色はピンク色、白、赤の三色ですが、いずれも鮮やかです。珍しい品種は花数が少なくなってきましたが、まだ見られます。花の中心から複弁を出す「サイケ」、ピンク色の花びらに白や赤で縁取りを付ける「ピコティ」、菊かダリアのような豪華な複弁花「ダブルクリック ローズボンボン」、花弁が筒状になる「シーシェル」、黄色の「イエローガーデン」「キャンパス」などです。
・開花時期:9月~11月上旬
・花数:15万本
《秘仏公開》白鳳阿弥陀仏と一時里帰りされている天平薬師仏が拝めます。
《御朱印》絵入りの〈ぼさつの寺めぐり〉〈白鳳仏〉〈天平仏〉など五種類あります。
〔俳句〕
「勝声(かちごえ)や 花咲爺(はなさかぢぢ)が 菊の花」一茶
・訳:勝声が響くよ。これぞ花咲かせ爺の菊の花。
〔秋艸道人会津八一歌集『鹿鳴集』。奈良愛惜の名歌〕
〈奈良坂から浄瑠璃寺へ〉
「ならさかを じやうるりでらに こえむひは
みちのまはにに あしあやまちそ」
(奈良坂を浄瑠璃寺に越えん日は 道の真埴に足過ちそ)
・まはに=真埴。赤土。
〈浄瑠璃寺の秋〉
「みだうなる 九ぼんのひざに ひとつづつ
かきたてまつれ ははのみために」
(御堂なる九品の膝に一つづつ 柿たてまつれ母の御為に)
*来年(西暦2016年平成28年)は真言律宗の祖師、忍性菩薩(にんしょうぼさつ)の生誕800年、信空慈眞和尚(しんくうじしんわじょう)の没後700年に当たります。お二人は叡尊師の高弟。忍性さんは鎌倉極楽寺に、慈真信空さんは西大寺奥ノ院に御廟塔があります。どちらも菩薩行に生涯をささげられた高僧です。
*興正菩薩(こうしょうぼさつ)の御教誡
「学と行が角(かく)を乖(そむ)くこと。
法は大乗にして行いは小乗。詞(ことば)は菩薩にして心は声聞なり。
〔このような修行者は動物の角がそむき離れているのと同じで間違ったあり方だ。〕」
・学=まなび。
・行=おこない。
・角=つの。
・法=おしえ、仏法。
・大乗=大きな乗り物。大乗仏教。一切衆生が仏になり救われる教え。
・小乗=小さな乗り物。自分の悟りを求めるだけの教え。
・菩薩=利他(衆生利益)のために仏道修行する人。大乗の行者。
・声聞=自利(自分の悟り)のためだけに修行する人。小乗の行者。
《真言律宗の祖、叡尊(えいそん)興正菩薩一代記を読む》584
『西大勅謚興正菩薩行実年譜附録』
(さいだいちょくしこうしょうぼさつぎょうじつねんぷふろく)
『興正菩薩分衣表白』(こうしょうぼさつぶんえひょうはく)
◆但、斯の作法を見るに、財宝衣物に於いて、誰人か貧貯(ひんちょ①)の意を起こすべき哉。是の故に如来教誡の旨を察し、いよいよ無常苦空(むじょうくくう②)の観解(かんげ③)に通達(つうだつ④)せしむ。然れば則ち過去聖霊頓証菩提(かこしょうりょうとんしょうぼだい⑤)、乃至法界平等利益(ないしほうかいびょうどうりやく⑥)、敬って白す。
① 貧貯=貯えのとぼしいこと。
② 無常苦空=諸行無常の苦しみも空であること。
③ 観解=観念し解了すること。
④ 通達=事理に通じてさえぎることのないこと。
⑤ 過去聖霊頓証菩提=亡くなった聖霊がすみやかに菩提を証さんことを。
⑥ 乃至法界平等利益=乃至、法界の一切衆生を平等に利益せんことを。
(つづく)
《古都奈良と浄瑠璃寺・岩船寺の文化財、歴史的自然環境を守るために》
日本中の、世界中の古都奈良を愛する人たちは、奈良市ごみ焼却場(クリーンセンター)を浄瑠璃寺南隣の「中ノ川・東鳴川」地区に移設することに怒りをもって反対しています。奈良市は非常識だと。
*奈良市クリーンセンター建設計画の問題点
1.奈良市クリーンセンター建設計画について、現環境清美工場からの排ガス等による科学的に立証される健康影響がなかったこと、公害調停に至る経過と公害調停自体に問題があること、候補地選定過程において歴史的・文化的遺産の保全等についての重要な議論がいっさいなされていないこと。
2.平安期の高僧、中ノ川実範(じつはん)上人開基の中川寺成身院跡など中ノ川地域の歴史的文化的、及び宗教的観点からの重要性を認識せず、その保全を全く考慮していないこと。
3.石仏の里として有名な当尾、平安時代の浄土式庭園(特別名勝及び史跡)、九体阿弥陀仏堂(本尊九体仏と本堂ともに国宝)、三重塔(国宝)など多数の国宝重要文化財を有する浄瑠璃寺、平安時代の丈六阿弥陀仏(重文)、木造三重塔(重文)、石造十三重塔(重文)、石龕不動明王(重文)など豊富な文化財を残す岩船寺を保存し後世に伝えるためには、周辺の自然生態系を含め、焼却施設からの有害ガス等による影響からこれらを保全する必要があること。
❍奈良市クリーンセンター建設予定地に隣接する当尾地区、数百メートルの距離にある浄瑠璃寺・岩船寺は、京都府の条例で「歴史的自然環境保全地域」に指定され、大切に保護されています。かつてこの地は南都仏教の奥ノ院的な聖地で山間修行の場でした。今も自然豊かな野山に巡礼者が歩いた石仏の道が残っています。
〇中ノ川町の山林には、平安時代の高僧実範(じっぱん)上人開基の「中川寺成身院」(なかがわじじょうしんいん)址があります。この寺は奈良における最古の本格的な密教寺院でありました。最近の研究では「灌頂堂」の指図(図面)が発見され高野山に匹敵するものであったことが判明。
またここは仏教音楽、声明(しょうみょう)の発祥の寺です。現在、高野山をはじめとする全国の真言寺院で唱えられる「南山進流」(なんざんしんりゅう)声明の流祖、大進(だいしん、宗観)上人は実範の弟子でした。さらに中世を通じて宗派を超えた総合的な仏教研究機関の役割を担っていました。浄土真宗の学僧、存覚上人(親鸞聖人のひ孫)もここで修学されています。日本文化史上有数の、重要なお寺があったのです。
このような貴重な日本の歴史遺産を消滅させる権利が奈良市民(一部の)に許されているのでしょうか。
〇予定候補地の地元、東鳴川町には浄土真宗大谷派の「応現寺」があり、平安時代の重要文化財・木造不空羂索観音菩薩座像が安置されています。奈良県企画「巡る奈良 祈りの回廊」によると、興福寺南円堂御本尊の摸刻といわれ、地元観音講の方々により大切に守られてきたもので日本最古の尊像です。毎月第1日曜日(9時~16時)に特別公開されています。奈良はどんな山の中にも宝物が残されています。
中ノ川寺址、応現寺、浄瑠璃寺、岩船寺。ごみ焼却施設の移転推進者たちはこれだけの歴史文化遺産があっても「なにもないところ」と言い張るのでしょうか。策定委員会の先生方の見識が疑われます。応現寺は奈良市のHPでも、奈良市トップページ>観光>文化財>お知らせ>東鳴川町「木造不空羂索観音坐像」の公開、として出ています。