コスモス寺花だより 11・30
○水仙:≪ちらほら咲き≫
「真中(まんなか)の小さき黄色のさかづきに
甘き香もれる水仙の花」木下利玄
見ごろは12月~2月、2万本。
おもに観音石仏の尊前に咲きます。
〔俳句〕
「もろもろの 智者達何と いふ時雨」一茶
・訳:たくさんの知恵者たちは、今日の時雨を何というだろうか。
〔秋艸道人会津八一歌集『鹿鳴集』。奈良愛惜の名歌〕
〈奈良坂から浄瑠璃寺へ〉
「ならさかを じやうるりでらに こえむひは
みちのまはにに あしあやまちそ」
(奈良坂を浄瑠璃寺に越えん日は 道の真埴に足過ちそ)
・まはに=真埴。赤土。
〈浄瑠璃寺の秋〉
「みだうなる 九ぼんのひざに ひとつづつ
かきたてまつれ ははのみために」
(御堂なる九品の膝に一つづつ 柿たてまつれ母の御為に)
・九品=九品の阿弥陀仏、九体仏とも言う。
*来年(西暦2016年平成28年)は真言律宗の祖師、忍性菩薩(にんしょうぼさつ)の生誕800年、信空慈眞和尚(しんくうじしんわじょう)の没後700年に当たります。お二人は叡尊師の高弟。忍性さんは鎌倉極楽寺に、慈真信空さんは西大寺奥ノ院に御廟塔があります。どちらも菩薩行に生涯をささげられた高僧です。
*興正菩薩(こうしょうぼさつ)の御教誡
「修行用意の事(前出文のつづき)
西方をねがい候とも、ただ弥陀の悲願をふかく念じて、浄土の依正(えしょう)を心にかけて、今生よりちりばかりも妄念(もうねん)をやむべきと覚えそうろう。」
・弥陀の悲願=阿弥陀仏が衆生をすくい取って見捨てないこと。摂取不捨。
・依正=依報(えほう)と正報(しょうほう)。まさしく過去の業(ごう)の報いとして受けた心身そのものを正報といい、その心身のより所となる一切の環境を依報という。
・妄念=迷いの心。迷妄の執心。
《真言律宗の祖、叡尊(えいそん)興正菩薩一代記を読む》
『西大勅謚興正菩薩行実年譜附録』巻の上
(さいだいちょくしこうしょうぼさつぎょうじつねんぷふろく)
『宇治孤嶋石塔供養式』(うじことうせきとうくようしき)
康応元年(一三八九)三月廿五日に、放生院住持の深泉大徳が勧化して行った、興正菩薩一百年忌追賁と十三重石塔修復完遂を兼ねた石塔供養式の式次第と法会記録。衆僧六百人の舞楽大法会である。
◆次 振鉾(しんぼう①)。〔三節(せつ②)。〕
次 金(きん③)を打つ。〔引頭著座し、已後之を打つ。〕
次 楽を発す。〔十天楽(じってんらく④)、一越調(いちこつちょう⑤)。〕
次 供花。〔左右の舞人之を伝え、十弟子之を取り仏前に備(そな)う。〕
① 振鉾=矛(ほこ)を振る。
② 節=歌曲の調子、音調、ふし。
③ 金=磬。「きん」は「磬(けい)」の唐宋音。読経などで桴(ばち)で打ち鳴らす仏具。
④ 十天楽=唐楽で、曲名の由来は東大寺の講堂供養の日に、十人の天人が舞い降りて仏前に花を供えたことと伝える。
⑤ 一越調=雅楽六調子の一つ。壱越の音、すなわち洋楽の「ニ」の音(D)を主音とした音階。いちおつちょう、いちこちちょう、とも言う。
(つづく)
《古都奈良と浄瑠璃寺・岩船寺の文化財、歴史的自然環境を守るために》
瀬戸内寂聴さんは〈浄瑠璃寺と当尾の里をまもる会〉に次のような賛同のことばを寄せられました。
「はじめて、歩いて浄瑠璃寺を訪れた時の感激を忘れません。寺を包みこむように静かに息づいていた美しい環境にも感動したものです。それらを守り続けるのは日本人としてのつとめです。」
日本中の、世界中の古都奈良を愛する人たちは、奈良市ごみ焼却場(クリーンセンター)を浄瑠璃寺南隣の「中ノ川・東鳴川」地区に移設することに怒りをもって反対しています。奈良市は非常識だと。
*奈良市クリーンセンター建設計画の問題点
1.奈良市クリーンセンター建設計画について、現環境清美工場からの排ガス等による科学的に立証される健康影響がなかったこと、公害調停に至る経過と公害調停自体に問題があること、候補地選定過程において歴史的・文化的遺産の保全等についての重要な議論がいっさいなされていないこと。
2.平安期の高僧、中ノ川実範(じつはん)上人開基の中川寺成身院跡など中ノ川地域の歴史的文化的、及び宗教的観点からの重要性を認識せず、その保全を全く考慮していないこと。
3.石仏の里として有名な当尾、平安時代の浄土式庭園(特別名勝及び史跡)、九体阿弥陀仏堂(本尊九体仏と本堂ともに国宝)、三重塔(国宝)など多数の国宝重要文化財を有する浄瑠璃寺、平安時代の丈六阿弥陀仏(重文)、木造三重塔(重文)、石造十三重塔(重文)、石龕不動明王(重文)など豊富な文化財を残す岩船寺を保存し後世に伝えるためには、周辺の自然生態系を含め、焼却施設からの有害ガス等による影響からこれらを保全する必要があること。
❍奈良市クリーンセンター建設予定地に隣接する当尾地区、数百メートルの距離にある浄瑠璃寺・岩船寺は、京都府の条例で「歴史的自然環境保全地域」に指定され、大切に保護されています。かつてこの地は南都仏教の奥ノ院的な聖地で山間修行の場でした。今も自然豊かな野山に巡礼者が歩いた石仏の道が残っています。
〇中ノ川町の山林には、平安時代の高僧実範(じっぱん)上人開基の「中川寺成身院」(なかがわじじょうしんいん)址があります。この寺は奈良における最古の本格的な密教寺院でありました。最近の研究では「灌頂堂」の指図(図面)が発見され高野山に匹敵するものであったことが判明。
またここは仏教音楽、声明(しょうみょう)の発祥の寺です。現在、高野山をはじめとする全国の真言寺院で唱えられる「南山進流」(なんざんしんりゅう)声明の流祖、大進(だいしん、宗観)上人は実範の弟子でした。さらに中世を通じて宗派を超えた総合的な仏教研究機関の役割を担っていました。浄土真宗の学僧、存覚上人(親鸞聖人のひ孫、覚如の長男)もここで修学されています。日本文化史上有数の、重要なお寺があったのです。
このような貴重な日本の歴史遺産を消滅させる権利が奈良市民(一部の)に許されているのでしょうか。
〇予定候補地の地元、東鳴川町には浄土真宗大谷派の「応現寺」があり、平安時代の重要文化財・木造不空羂索観音菩薩座像が安置されています。奈良県企画「巡る奈良 祈りの回廊」によると、興福寺南円堂御本尊の摸刻といわれ、地元観音講の方々により大切に守られてきたもので日本最古の尊像です。毎月第1日曜日(9時~16時)に特別公開されています。奈良はどんな山の中にも宝物が残されています。
中ノ川寺址、応現寺、浄瑠璃寺、岩船寺。ごみ焼却施設の移転推進者たちはこれだけの歴史文化遺産があっても「なにもないところ」と言い張るのでしょうか。策定委員会の先生方の見識が疑われます。応現寺は奈良市のHPでも、奈良市トップページ>観光>文化財>お知らせ>東鳴川町「木造不空羂索観音坐像」の公開、として出ています。