般若寺花だより 1・31
○水仙:≪終り近し≫
「日にうとき 庭の垣根の 霜柱
水仙に添ひて 炭俵敷く」正岡子規
雪中花、今年の水仙の花は暖冬のため早くから咲いています。見ごろは今月いっぱいです。
三十三番札所観音石像の御尊前をかざって咲き、辺りに芳香が漂っています。
〔俳句〕
「万歳や 馬の尻へも 一祝(ひといはひ)」一茶
・訳:万歳がやってきたよ。馬のお尻へもめでたい新年のお祝い。
〔秋艸道人会津八一歌集『鹿鳴集』。奈良愛惜の名歌〕
〈春日野にて〉
「かすがのに ふれるしらゆき あすのごと
けぬべくわれは いにしへおもほゆ」
(春日野に降れる白雪明日のごと 消ぬべく我は古しえ思ほゆ)
〈浄瑠璃寺にて〉
「びしやもんの ふりしころもの すそのうらに
くれなゐもゆる はうさうげかな」
(毘沙門の古りし衣の裾裏に 紅燃ゆる宝相華かな)
*興正菩薩(こうしょうぼさつ)の御教誡
「名利(みょうり①)を離れ学を修すべき事
当時の修学者のありさま、名利のために正法を学びてそうろう。律義(りちぎ②)の者と成って地獄の業因(ごういん③)を植う。諍(そう④)の義のために仏法を学び世智弁聡(せちべんそう⑤)のものとなって、たまたま仏法に遭いながら八難(はちなん⑥)の随一、地獄の業因を植えること、実に悲しむべし。よくよく思慮すべきことなり。」
① 名利=名聞利養。名誉欲と利欲。
② 律義=梵・サンバラ。禁戒と訳す。善行のこと、また善行を行うよう定めた戒法。
③ 業因=未来に苦楽の果報を招く因となる善悪の行為。
④ 諍=あらそい、いさかい。
⑤ 世智弁聡=八難の一つ。世知にたけて邪見におちいること。また、そのさま。
⑥ 八難=仏道修行の妨げとなる八つの障難。地獄・餓鬼・畜生の三悪道に長寿天・辺地・盲聾瘖瘂・世智弁聡・仏前仏後。
《真言律宗の祖、叡尊(えいそん)興正菩薩一代記を読む》662
『西大勅謚興正菩薩行実年譜附録』巻の下
(さいだいちょくしこうしょうぼさつぎょうじつねんぷふろく)
『京師報恩教寺佛牙舎利縁起』
(けいしほうおんきょうじぶつげしゃりえんぎ)
◆第三生はすなわち今身是なり。高き諱(いみな)は道宣(どうせん)、字(あざな)は法徧(ほうへん)。京華に在りて生長す。母、大師を懐に抱くの日に、月が懐を貫くを夢みる。因りて孕(はら)む有り。又、夢に梵僧語りて曰く、仁者とは所懐の子、すなわち梁の僧祐律師、宜しく出家せしむれば大いに仏法を弘む。
(つづく)
《古都奈良と浄瑠璃寺・岩船寺の文化財、歴史的自然環境を守るために》
瀬戸内寂聴さんは〈浄瑠璃寺と当尾の里をまもる会〉に次のような賛同のことばを寄せられました。
「はじめて、歩いて浄瑠璃寺を訪れた時の感激を忘れません。寺を包みこむように静かに息づいていた美しい環境にも感動したものです。それらを守り続けるのは日本人としてのつとめです。」
日本中の、世界中の古都奈良を愛する人たちは、奈良市ごみ焼却場(クリーンセンター)を浄瑠璃寺南隣の「中ノ川・東鳴川」地区に移設することに怒りをもって反対しています。奈良市は非常識だと。
*奈良市クリーンセンター建設計画の問題点
1.奈良市クリーンセンター建設計画について、現環境清美工場からの排ガス等による科学的に立証される健康影響がなかったこと、公害調停に至る経過と公害調停自体に問題があること、候補地選定過程において歴史的・文化的遺産の保全等についての重要な議論がいっさいなされていないこと。
2.平安期の高僧、中ノ川実範(じつはん)上人開基の中川寺成身院跡など中ノ川地域の歴史的文化的、及び宗教的観点からの重要性を認識せず、その保全を全く考慮していないこと。
3.石仏の里として有名な当尾、平安時代の浄土式庭園(特別名勝及び史跡)、九体阿弥陀仏堂(本尊九体仏と本堂ともに国宝)、三重塔(国宝)など多数の国宝重要文化財を有する浄瑠璃寺、平安時代の丈六阿弥陀仏(重文)、木造三重塔(重文)、石造十三重塔(重文)、石龕不動明王(重文)など豊富な文化財を残す岩船寺を保存し後世に伝えるためには、周辺の自然生態系を含め、焼却施設からの有害ガス等による影響からこれらを保全する必要があること。
❍奈良市クリーンセンター建設予定地に隣接する当尾地区、数百メートルの距離にある浄瑠璃寺・岩船寺は、京都府の条例で「歴史的自然環境保全地域」に指定され、大切に保護されています。かつてこの地は南都仏教の奥ノ院的な聖地で山間修行の場でした。今も自然豊かな野山に巡礼者が歩いた石仏の道が残っています。
〇中ノ川町の山林には、平安時代の高僧実範(じっぱん)上人開基の「中川寺成身院」(なかがわじじょうしんいん)址があります。この寺は奈良における最古の本格的な密教寺院でありました。最近の研究では「灌頂堂」の指図(図面)が発見され高野山に匹敵するものであったことが判明。
またここは仏教音楽、声明(しょうみょう)の発祥の寺です。現在、高野山をはじめとする全国の真言寺院で唱えられる「南山進流」(なんざんしんりゅう)声明の流祖、大進(だいしん、宗観)上人は実範の弟子でした。さらに中世を通じて宗派を超えた総合的な仏教研究機関の役割を担っていました。浄土真宗の学僧、存覚上人(親鸞聖人のひ孫、覚如の長男)もここで修学されています。日本文化史上有数の、重要なお寺があったのです。
このような貴重な日本の歴史遺産を消滅させる権利が奈良市民(一部の)に許されているのでしょうか。
〇予定候補地の地元、東鳴川町には浄土真宗大谷派の「応現寺」があり、平安時代の重要文化財・木造不空羂索観音菩薩座像が安置されています。奈良県企画「巡る奈良 祈りの回廊」によると、興福寺南円堂御本尊の摸刻といわれ、地元観音講の方々により大切に守られてきたもので日本最古の尊像です。毎月第1日曜日(9時~16時)に特別公開されています。奈良はどんな山の中にも宝物が残されています。
中ノ川寺址、応現寺、浄瑠璃寺、岩船寺。ごみ焼却施設の移転推進者たちはこれだけの歴史文化遺産があっても「なにもないところ」と言い張るのでしょうか。策定委員会の先生方の見識が疑われます。応現寺は奈良市のHPでも、奈良市トップページ>観光>文化財>お知らせ>東鳴川町「木造不空羂索観音坐像」の公開、として出ています。