般若寺花だより 3・31
〔花ごよみ〕
〇色々な椿:≪見ごろ≫
〇連翹:≪見ごろ≫
〇矢車草:≪咲きはじめ≫
〇桜:≪三分咲き≫
〇山吹:≪咲きはじめ≫一重咲きが咲いています。八重咲きと白山吹は蕾。
〇蔓日日草:≪咲きはじめ≫
〔俳句〕
「夕暮れや 親なし雀 何と鳴」一茶
訳:夕暮れの淋しさよ。親がいない雀は何と鳴くのだろう。
〔秋艸道人会津八一歌集『鹿鳴集』。奈良愛惜の名歌〕
〈猿沢池にて〉
「わぎもこが きぬかけやなぎ みまくほり
いけをめぐりぬ かささしながら」
(吾妹子が衣掛け柳見まく欲り 池を廻りぬ傘さしながら)
・わぎもこ=わぎも(吾妹)は自分の妻や恋人である女性、または広く女性を親愛の気持ちをこめて呼ぶ語。「こ」は親愛の意を表す。
・みまくほり=見たいと思う、会いたいと思う。
〈奈良坂にて〉
「ならさかの いしのほとけの おとかひに
こさめなかるる はるはきにけり」
(奈良坂の石の仏の頤に 小雨流るる春は来にけり)
・おとがひ=下あご。あご。
〔興正菩薩(こうしょうぼさつ)の御教誡〕
「済度群生(さいどぐんじょう①)を修行の根源となすべき事。 弘安七年七年四月晦日(②)。
利生(りしょう③)の願を堅固にすべき事、授戒の時のお説法に云う。八地(はっち④)已前はなお利生の障(さわ)りを断ずることあたわず。九地に至りて之を断つ。何ぞいわんや下凡の初発心の人は、利生に於いて障り多し。いずれにしても唯はげむべきなり。三聚浄戒(さんじゅうじょうかい⑤)は上求下化(じょうぐげけ⑥)の二心を以って本となす。詮ずるところは、ただ利生なり。この心を堅固にして摂律儀戒(しょうりつぎかい⑦)を堅く守らば、摂善摂生(しょうぜんしょうじょう⑧)は自ずから利益あるべきなり、云々。」
① 済度群生=群生は衆生と同義、全ての人びと。広くは生きとし生けるもの生命の全てをいう場合もある。済度するとは、精神的にも物理的にも苦を除き、楽を与えて、悟りの世界へ導くこと。
② 弘安七年四月晦日=興正菩薩の『感身学正記』には、「四月二十八日。内裏の女房達十人に菩薩戒を授く。」との記事がある。菩薩八十四歳。
③ 利生=利益衆生。利益は済度と同義。
④ 八地=菩薩地に至るために十の修行段階があるうち、第八番目。
⑤ 三聚浄戒=大乗戒。菩薩が衆生済度のために守り実行すべき戒。三種類の浄戒のあつまり。
⑥ 上求下化=上求菩提、下化衆生。あおいでは菩提を求め、ふりかえっては衆生を利益すること。
⑦ 摂律儀戒=一切の律儀を悉く摂(おさ)めている戒のこと。具体的には、四分の二百五十戒、梵網の十重四十八軽戒。身口意の三業の悪を制することを誓う。止悪門、止持戒ともいう。
⑧ 摂善摂生=摂善法戒は一切の善を行うことを戒としたもの。作善戒・作善門をさす。摂衆生戒は一切の衆生を摂取して、あまねく利益を施すこと。
《真言律宗の祖、叡尊(えいそん)興正菩薩一代記を読む》
『西大勅謚興正菩薩行実年譜附録』巻の下
(さいだいちょくしこうしょうぼさつぎょうじつねんぷふろく)
『西大寺光明真言会縁起』
(さいだいじこうみょうしんごんええんぎ)
◆そもそも大会光明真言は、文永元年の始行。思円上人の誓約に云う。且つは当寺の大檀那(①)、再会を淨仏道に期さんが為、且つは六道四生(ろくどうししょう②)は皆是れ劫々(こうごう③)の父母、鉄囲砂界(てっちしゃかい④)は世々(せぜ⑤)の明(朋ヵ)友ならざるはなし。彼の楚痛(そつう⑥)を思い、我が殷憂(いんゆう⑦)と為す。
① 当寺の大檀那=西大寺を創建された称徳天皇。
② 六道四生=六道は衆生が生前の業因によって生死を繰り返す六つの迷いの世界。地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人間・天上。四生は生物をその生れ方で分類。胎生・卵生・湿生・化生。
③ 劫劫=きわめて長い時間。
④ 鉄囲沙界=須弥山を囲む九山八海(くせんはっかい)の一つで最も外側の鉄でできた山を鉄囲山という。沙界はインドの恒河(ガンジス)にある砂の無量無数なように、宇宙にちらばっている多くの世界
⑤ 世々=多くの世。代々。「せせ」とも。
⑥ 楚痛=いたみ苦しむこと。「楚」も痛むこと。
⑦ 殷憂=大きな憂い、悲しみ。
(つづく)
*〔忍性(にんしょう)菩薩御生誕八百年〕
今年は興正菩薩の高弟、忍性菩薩(後醍醐天皇により菩薩号を諡される)が奈良県三宅町の「屏風の里」で誕生されてから八百年という記念の年に当たります。真言律宗にとっては宗祖に次ぐ祖師であり、日本の社会救済事業の巨人と言える僧です。現代仏教が忘れてしまった衆生済度、菩薩行の実践を再興するためにも先達として学びたいお方です。真言律宗(本山西大寺)としては慶賛の事業は予定されていませんが、生誕地の屏風では、浄土宗の浄土寺さん(藤田能宏住職)が菩薩の尊像を造立中です。そして奈良国立博物館では、菩薩が活動された鎌倉極楽寺から一山を挙げての『忍性展』(7月―9月)が行なわれます。般若寺としても、菩薩が若きころハンセン病者救済活動をされた地であり、その業績や御遺徳を世に広めて行きたいと思っています。
《古都奈良と浄瑠璃寺・岩船寺の文化財、歴史的自然環境を守るために》
瀬戸内寂聴さんは〈浄瑠璃寺と当尾の里をまもる会〉に次のような賛同のことばを寄せられました。
「はじめて、歩いて浄瑠璃寺を訪れた時の感激を忘れません。寺を包みこむように静かに息づいていた美しい環境にも感動したものです。それらを守り続けるのは日本人としてのつとめです。」
日本中の、世界中の古都奈良を愛する人たちは、奈良市ごみ焼却場(クリーンセンター)を浄瑠璃寺南隣の「中ノ川・東鳴川」地区に移設することに怒りをもって反対しています。奈良市は非常識だと。
*奈良市クリーンセンター建設計画の問題点
1.奈良市クリーンセンター建設計画について、現環境清美工場からの排ガス等による科学的に立証される健康影響がなかったこと、公害調停に至る経過と公害調停自体に問題があること、候補地選定過程において歴史的・文化的遺産の保全等についての重要な議論がいっさいなされていないこと。
2.平安期の高僧、中ノ川実範(じつはん)上人開基の中川寺成身院跡など中ノ川地域の歴史的文化的、及び宗教的観点からの重要性を認識せず、その保全を全く考慮していないこと。
3.石仏の里として有名な当尾、平安時代の浄土式庭園(特別名勝及び史跡)、九体阿弥陀仏堂(本尊九体仏と本堂ともに国宝)、三重塔(国宝)など多数の国宝重要文化財を有する浄瑠璃寺、平安時代の丈六阿弥陀仏(重文)、木造三重塔(重文)、石造十三重塔(重文)、石龕不動明王(重文)など豊富な文化財を残す岩船寺を保存し後世に伝えるためには、周辺の自然生態系を含め、焼却施設からの有害ガス等による影響からこれらを保全する必要があること。
❍奈良市クリーンセンター建設予定地に隣接する当尾地区、数百メートルの距離にある浄瑠璃寺・岩船寺は、京都府の条例で「歴史的自然環境保全地域」に指定され、大切に保護されています。かつてこの地は南都仏教の奥ノ院的な聖地で山間修行の場でした。今も自然豊かな野山に巡礼者が歩いた石仏の道が残っています。
〇中ノ川町の山林には、平安時代の高僧実範(じっぱん)上人開基の「中川寺成身院」(なかがわじじょうしんいん)址があります。この寺は奈良における最古の本格的な密教寺院でありました。最近の研究では「灌頂堂」の指図(図面)が発見され高野山に匹敵するものであったことが判明。
またここは仏教音楽、声明(しょうみょう)の発祥の寺です。現在、高野山をはじめとする全国の真言寺院で唱えられる「南山進流」(なんざんしんりゅう)声明の流祖、大進(だいしん、宗観)上人は実範の弟子でした。さらに中世を通じて宗派を超えた総合的な仏教研究機関の役割を担っていました。浄土真宗の学僧、存覚上人(親鸞聖人のひ孫、覚如の長男)もここで修学されています。日本文化史上有数の、重要なお寺があったのです。
このような貴重な日本の歴史遺産を消滅させる権利が奈良市民(一部の)に許されているのでしょうか。
〇予定候補地の地元、東鳴川町には浄土真宗大谷派の「応現寺」があり、平安時代の重要文化財・木造不空羂索観音菩薩座像が安置されています。奈良県企画「巡る奈良 祈りの回廊」によると、興福寺南円堂御本尊の摸刻といわれ、地元観音講の方々により大切に守られてきたもので日本最古の尊像です。毎月第1日曜日(9時~16時)に特別公開されています。奈良はどんな山の中にも宝物が残されています。
中ノ川寺址、応現寺、浄瑠璃寺、岩船寺。ごみ焼却施設の移転推進者たちはこれだけの歴史文化遺産があっても「なにもないところ」と言い張るのでしょうか。策定委員会の先生方の見識が疑われます。応現寺は奈良市のHPでも、奈良市トップページ>観光>文化財>お知らせ>東鳴川町「木造不空羂索観音坐像」の公開、として出ています。