コスモス寺花だより 8・1
〔花ごよみ〕
〇秋咲コスモス:花期9月~11月 15万本 20種類
〇ヒツジ草、姫スイレン:≪見ごろ≫睡蓮の原生種。
〇秋海棠:≪見ごろ≫300株。ベゴニアの一種で中国原産。江戸時代に日本へもたらされ全国に広まる。今では山林に自生しているところもあるほどなじみのある夏の花。日蔭を好む。ピンク色と白色がある。葉は変形のハート形で涼しげな浅緑色。
○百日紅:≪満開≫
〔俳句〕
「嘴太(はしぶと)の 夢や見つらん 夜の蝉」一茶
訳: 嘴太鴉の夢でも見たのだろうか。突然鳴きだした夜の蝉。
〔秋艸道人会津八一歌集『鹿鳴集』。奈良愛惜の名歌〕
〈香薬師を拝して〉
「みほとけの うつらまなこに いにしへの
やまとくにばら かすみてあるらし」
(御仏の虚ら眼に古えの 大和国原霞てあるらし。)
「ちかづきて あふぎみれども みほとけの
みそなはすとも あらぬさびしさ」
(近づきて仰ぎ見れども御仏の みそなわすともあらぬ寂しさ。)
・みそなはす=「みそこなわす(見行)」の変化した語。「見る」の尊敬語。ご覧になる。
真言律宗の祖、叡尊(えいそん)興正菩薩一代記を読む》772
『西大勅謚興正菩薩行実年譜附録』巻の上
(さいだいちょくしこうしょうぼさつぎょうじつねんぷふろく)
如意輪精舎後裔苾芻慈光 編録
『西大寺中興思円上人行業記』凝然著
(さいだいじちゅうこうしえんしょうにんぎょうごうき)
(西大寺蔵『興正菩薩伝記一巻』)
◆【受十戒具戒之者。幾二千人。受一分全分輩。将十万人。十重六八菩薩蔵。珠瓊煥爛。日月明朗。故戒行清潔。超雪霜之状。律徳皎徹。勝氷玉之体。】
〔十戒具戒(じゅっかいぐかい①)を受くるの者、幾二千人(きにせんにん②)。一分、全分を受くる輩は将(まさ)に十万人。十重六八(じゅうじゅうろくはち③)の菩薩(戒)蔵は、珠瓊(しゅけい④)煥爛(かんらん⑤)、日月明朗(めいろう⑥)たり。故に戒行清潔なること雪霜の状を超える。律徳(りっとく⑦)の皎徹(きょうてつ⑧)なること氷玉(ひょうぎょく)の体に勝る。〕
① 十戒具戒=十戒は沙弥、沙弥尼が受ける戒。具戒は具足戒、比丘が受ける二百五十戒、比丘尼が受ける三百四十八戒。
② 幾二千人=二千人ちかい人。
③ 十重六八=梵網経の十重戒と四十八軽戒。
④ 珠瓊=たま、珠玉。
⑤ 煥爛=光り輝くさま。
⑥ 明朗=あかるくさっぱりしている。
⑦ 律徳=戒律を善く守り高徳であること。
⑧ 皎徹=清く明るい。
(つづく)
*この行業記は東大寺戒壇院の凝然(ぎょうねん)大徳が興正菩薩御入滅の年、正応三年(1290)九月十八日、菩薩入滅後二十三日目に記したものです。文章は偈文に近い文体で短い中に菩薩の御生涯をまとめてあり、非常に格調高い歎徳文となっています。凝然師(1240-1321)は鎌倉時代の南都仏教随一の学僧で、華厳・真言・律・浄土・禅等を研鑽し、自ら「華厳兼律金剛欣淨三経学士沙門」と名乗った。生涯に千巻を超える著作をものしたが、『八宗綱要』『律宗綱要』『内典塵露章』『三国仏法伝通縁起』などが今に残る。
*〔忍性(にんしょう)菩薩御生誕八百年〕
今年は興正菩薩の高弟、忍性菩薩(後醍醐天皇により菩薩号を諡される)が奈良県三宅町の「屏風(びょうぶ)の里」で誕生されてから八百年という記念の年に当たります。真言律宗にとっては宗祖に次ぐ祖師であり、日本の社会救済事業の巨人と言える僧です。現代仏教が忘れてしまった衆生済度、菩薩行の実践を再興するためにも、先輩として学びたいお方です。真言律宗(本山西大寺)としては慶賛の事業は予定されていませんが、生誕地の屏風では、浄土宗の浄土寺さん(藤田能宏住職)が菩薩の尊像を造立中、さらに映画「忍性」(秋原北胤監督、和泉元弥主演)の製作が進行中です。そして奈良国立博物館では、菩薩が活動された鎌倉極楽寺から一山を挙げての『忍性展』(7月23日―9月19日)が行なわれます。般若寺としても、菩薩が若きころハンセン病者救済活動をされた地であることから、その業績や御遺徳を世に広めて行きたいと思っています。
○当山からは
御本尊八字文殊師利菩薩騎獅像(重要文化財)が出開帳されます。
(側面から拝めるのはこの機会しかありません。寺の本堂では厨子の中です。)
期間は7月26日から8月11日まで。そのほかには丈六文殊の造立願文、文殊縁起、脇侍の太刀と手首、獅子の踏み蓮華石などが出陳されます。
《古都奈良と浄瑠璃寺・岩船寺の文化財、歴史的自然環境を守るために》
瀬戸内寂聴さんは〈浄瑠璃寺と当尾の里をまもる会〉に次のような賛同のことばを寄せられました。
「はじめて、歩いて浄瑠璃寺を訪れた時の感激を忘れません。寺を包みこむように静かに息づいていた美しい環境にも感動したものです。それらを守り続けるのは日本人としてのつとめです。」
日本中の、世界中の古都奈良を愛する人たちは、奈良市ごみ焼却場(クリーンセンター)を浄瑠璃寺南隣の「中ノ川・東鳴川」地区に移設することに怒りをもって反対しています。奈良市は非常識だと。
*奈良市クリーンセンター建設計画の問題点
1.奈良市クリーンセンター建設計画について、現環境清美工場からの排ガス等による科学的に立証される健康影響がなかったこと、公害調停に至る経過と公害調停自体に問題があること、候補地選定過程において歴史的・文化的遺産の保全等についての重要な議論がいっさいなされていないこと。
2.平安期の高僧、中ノ川実範(じつはん)上人開基の中川寺成身院跡など中ノ川地域の歴史的文化的、及び宗教的観点からの重要性を認識せず、その保全を全く考慮していないこと。
3.石仏の里として有名な当尾、平安時代の浄土式庭園(特別名勝及び史跡)、九体阿弥陀仏堂(本尊九体仏と本堂ともに国宝)、三重塔(国宝)など多数の国宝重要文化財を有する浄瑠璃寺、平安時代の丈六阿弥陀仏(重文)、木造三重塔(重文)、石造十三重塔(重文)、石龕不動明王(重文)など豊富な文化財を残す岩船寺を保存し後世に伝えるためには、周辺の自然生態系を含め、焼却施設からの有害ガス等による影響からこれらを保全する必要があること。
❍奈良市クリーンセンター建設予定地に隣接する当尾地区、数百メートルの距離にある浄瑠璃寺・岩船寺は、京都府の条例で「歴史的自然環境保全地域」に指定され、大切に保護されています。かつてこの地は南都仏教の奥ノ院的な聖地で山間修行の場でした。今も自然豊かな野山に巡礼者が歩いた石仏の道が残っています。
〇中ノ川町の山林には、平安時代の高僧実範(じっぱん)上人開基の「中川寺成身院」(なかがわじじょうしんいん)址があります。この寺は奈良における最古の本格的な密教寺院でありました。最近の研究では「灌頂堂」の指図(図面)が発見され高野山に匹敵するものであったことが判明。
またここは仏教音楽、声明(しょうみょう)の発祥の寺です。現在、高野山をはじめとする全国の真言寺院で唱えられる「南山進流」(なんざんしんりゅう)声明の流祖、大進(だいしん、宗観)上人は実範の弟子でした。さらに中世を通じて宗派を超えた総合的な仏教研究機関の役割を担っていました。浄土真宗の学僧、存覚上人(親鸞聖人のひ孫、覚如の長男)もここで修学されています。日本文化史上有数の、重要なお寺があったのです。
このような貴重な日本の歴史遺産を消滅させる権利が奈良市民(一部の)に許されているのでしょうか。
〇予定候補地の地元、東鳴川町には浄土真宗大谷派の「応現寺」があり、平安時代の重要文化財・木造不空羂索観音菩薩座像が安置されています。奈良県企画「巡る奈良 祈りの回廊」によると、興福寺南円堂御本尊の摸刻といわれ、地元観音講の方々により大切に守られてきたもので日本最古の尊像です。毎月第1日曜日(9時~16時)に特別公開されています。奈良はどんな山の中にも宝物が残されています。
中ノ川寺址、応現寺、浄瑠璃寺、岩船寺。ごみ焼却施設の移転推進者たちはこれだけの歴史文化遺産があっても「なにもないところ」と言い張るのでしょうか。策定委員会の先生方の見識が疑われます。応現寺は奈良市のHPでも、奈良市トップページ>観光>文化財>お知らせ>東鳴川町「木造不空羂索観音坐像」の公開、として出ています。
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